あの日は。
梅雨時で、その日の帰りも土砂降りだった。


周りにまとわりついていた女の子たちに手を振ると、俺は溜息をつきながら傘をさして、屋根の下から出た。
ぴちゃぴちゃと、歩く音が響く。
靴に水滴が乗っかって、家に帰ったら拭かなきゃいけないな、と瞬時に思考が回った。


どうしてどーでもいい女の子たちの相手は全然できるのに、自分から一歩踏み出せないんだろう。
それが俺の昔からの悩みだった。
音楽で食べていきたい。
物心ついたときからずっとそう思っていた。
なのに未だに事務所の電話番号を見つめて1日を無駄に食いつぶすだけ。
ほんと…チキンだなぁ、俺。


ぴちゃ、ぴちゃ……


すぐにわかった。
後ろから走ってくる音。
息を切らしてる。
いつもの誰か。
多分、瀬那か、瑠南、なんだろうな。


今日もまた……。
何回断ったら、こいつら諦めてくれるんだろう。
なんで、俺に目をつけちゃったわけ?