女王様の言うとおり

そして甘ったるい匂いはそこから漂ってきているのだ。


「蟻の観察をしてるのかな……」


ヒナが異様なものを見る目で水槽を見つめ、そう呟いた。


「確か、蟻を観察するキットも売ってるよね。でもこれはちょっと……」


あたしはそこまで言って口を閉じた。


階段を上がって来る足音が聞こえてきたのだ。


「お待たせ。あれ、適当に座ってくれればいいのに」


お盆にお茶の入ったコップを乗せて大山君が部屋に入って来た。


部屋の中央にある小さなテーブルの上に3人分のお茶を置くと、自分は水槽の前に胡坐をかいて座った。


そしてせわしなく動き回っている蟻をいとおしそうに見つめる。


あたしたちはそろそろとその場に腰を下ろし、大山君の様子を伺った。


「お前、そんなに蟻が好きだったのか?」


柊真の質問に、大山君は笑顔を向けた。


「もちろん、大好きだよ!」


「でも、そんな話聞いたことがないぞ?」


「好きになったのは結構最近だよ。大西さんが転校して来てからだ」


大西さんの名前が出たことに驚き、あたしは半分腰を浮かせてしまった。