病院の駐車場に車を留め、通用口へ。直斗さんの足取りは慣れたもので通い慣れていることをうかがわせる。

病棟のエレベーターを降りてナースステーションを通り、お父様が入院しているという病室へ。
個室に入っているという話に、お父様の社会的地位の高さを改めて感じる。

今はプライバシー保持のために病室にネームプレートを付けないとのことで、部屋番号をきちんと覚えていなければならない。
車椅子やストレッチャーが搬入ができるようにだろう、横に引いて開けるタイプの幅の広いドアが並ぶ長い廊下を進む。

ちなみに見舞いの品を直斗さんに相談したところ、「なにもいらない」という返事だった。
「正直、ちょっと困ってて。色んなひとが見舞いの品を持って来てくれるのはありがたいけど、生花は手入れがけっこう大変だし、細かいことをいうと細菌感染のリスクもある。親父はいま流動食だから、お菓子なんかは食べられないし」
というわけで手ぶらでの訪問になった。

ひとつのドアの前で直斗さんが足を止めた。
コンコンとドアをノックすると、「はぁい」とドア越しにくぐもった男女の二重奏が聞こえてきた。
開けられるのを待たず、直斗さんがドアを開ける。