「俺は今まで、他人に触れられることを嫌っていた。昔の婚約者も同じく、触れられることは耐えられず、距離を取っていた」

 ……そんな……わたしそんなことも知らずに最初から霞さんに沢山触れて……挙句の果てにはキスだって……


「だが……詩音だけは違うんだ……」
「え……違うって……」
「……っ、詩音に触れられると、体が熱くなって胸が痛む……だが離れてほしくはない、絶対に……」


 霞さんは震える声で言葉を紡いだ。
 表情は見えない、でも霞さんの熱い吐息が耳にかかる。



 その時、霞さんはわたしから離れ、両肩に優しく手を添えた。
 真剣な表情だけど顔は真っ赤で……改めて真っ直ぐ見られたら、わたしは恥ずかしくて目を逸らしてしまう。




「詩音、俺だけのものになってくれないか……?」






 霞さんも恥ずかしさで声が出ないのか、震えるような小さな声で言葉をぎこちなく紡いだ。


「……っ、それって……わたしのことを好きって事……ですか……?」


 自惚れなんかじゃないって確信に近い予感がした。
 霞さんはわたしの事を……?


 いや、でも……そんなことあるわけない……だって、だって……


「霞さんは誰にでも優しい……わたしも他の人と同じなんだって……」
「……何故そうなるんだ? 本気でそう思ってるのか……?」

「ち、違います……っ、独占したいとかそういう訳では……」


 どうしよう、こんなこと言うつもりは一ミリもなかった。でも……気付いたら言葉が漏れてて、もう手遅れになってて……



「独占したいのは俺の方だ……詩音を誰のものにもさせたくない」


 霞さんは切なげな表情で言った。
 どうしてそんな顔を……そんな顔されたらわたしまで泣きそうになっちゃうよ……


「だから、ずっと傍にいてほしい。……俺と添い遂げてくれ」


 霞さんの瞳から、一筋の涙が流れた。