「え。なにそのおいしい環境」

実家に帰ってくるたびに会っている、中学からの友達の佳乃がポカンとして言う。

会うたびに髪型を変えていると言っても過言ではない佳乃の髪は、今は明るい茶色のボブ。
眉の上で切りそろえられた前髪も、活発な性格な佳乃によく似合っていた。

「おいしい環境って、なにが?」

帰省すると、佳乃と駅前の通りにあるイタリアンで食事するのが毎回の恒例となっている。
このお店のバジルソースのパスタは私と佳乃の昔からのお気に入りで、来店するたびに注文しているのだけれど、今回もテーブルの上にはバジルソースパスタが二皿並んでいた。

一緒に頼んだトマトサラダが入っていたお皿はもう空になっている。

照明やアンティーク調の造りから漂うムーディーな雰囲気のなか、流れるのは控えめな音量のジャズミュージック。
十九時の店内は、八割方席が埋まり、各々、食事と会話を楽しんでいた。

「おいしいじゃん。っていうか、伊月って本当のあの伊月なの? 同じ名字ってだけじゃなくて?」

驚いた顔で聞いてくる佳乃に、パスタをくるくると巻き付けながら答える。

「うん。正真正銘、御曹司みたい。本人、全然そんな感じしないけどね」
「え、どんな感じなの? 伊月の御曹司って。美形?」
「美形……かな。うん。強面っていうか、パッと見だけだと怖いから、睨んだりしたら人殺せそうな感じはするけど……基本、優しいし」

フォークに巻きつけたパスタを食べながら話すと、佳乃は「へぇ」と弾んだ声を出した。