「ふじえが言ってた。つぐみがきちんと自分の欲しいものを欲しいって言えないのは、わがままのひとつも言えないのは、母親に拒絶されたからだって。だから、誰にも頼れないんだって」

ゆっくりと視線を動かし、うつむく。
膝の上では、伊月の手がまだ私の手を握っていた。

大きくてゴツゴツしている手は、伊月の態度からは想像もできないくらいにあたたかく優しくて……触れていると落ち着いた。

「おまえのそういう部分を〝都合がいい〟って適当に利用するために近づいてくる男が悪いだけで、おまえは悪くない」

今日は光川さんとのことがあって、気持ちがトゲトゲしていたはずなのに。
ギュッと握られた手が、伊月の言葉が、そんな棘全部を包んでくれているみたいだった。

「おまえは、なにも悪くねーよ」

伊月のおかげでまるくなった感情。

言い聞かせるように繰り返される、〝おまえは悪くない〟の言葉。

本当は、その優しさに目の奥では涙が生まれていたのだけど。
また〝泣き虫〟だなんて言われるのは嫌だから、ぐっと我慢した。