「だからか、おまえんちはホッとできる。飯もうまいし」
急に向けられた笑みに胸の奥がトクッと音を立てた気がした。
今の今まで、憂いさえ覗かせた微笑みを浮かべていたっていうのに、こんな風に急にあどけない笑顔を向けられてしまうと困る。
……ドキドキしてしまうから。
動揺がバレないように目を逸らし「うちのおばあちゃん、料理上手だからね」とそっけなく言うと、伊月は「それだけじゃないけどな」と返した。
「つぐみも大地も、結構衝撃的な過去背負ってんのに、明るいだろ。普通、あんな目に遭ったら塞ぎこんでもおかしくないのに、感情を表に出すことを怖がらないっていうか、ためらいがなくて……逞しい。おまえんちの家族はみんな強さも情もあるから一緒にいて心地いいんだろうな」
「おばあちゃんや大地はそうだけど、私は違うよ。私は……まぁ、伊月には素を見せられるけど。結構、本音は飲み込んじゃうし。さっきの元彼にだって、二年間ずっとそうだった」
だから、伊月にそんな風にいってもらえるような人間じゃない。
そう伝えたつもりだったのに、伊月は楽しそうに笑う。
「それも大地に聞いたけど、おまえらしいと思った。一見、ハキハキしてるしすぐ割り切って考えそうなもんなのに、実際は未練持ったままだったり感情飲み込んだり、泣き虫だったり。不器用で、それでも頑張ってるっていうのがおまえっぽい」
褒められているのはわかっても、なにを返せばいいのかわからずにただ微妙な面持ちで黙っていることしかできずにいると、伊月が一歩近づき腰を折る。
フレームインしてきた顔に驚き後ずさろうとした私を、腰に回った腕が止めた。