「最低って思うのに、なんで……」

割り切れない想いに、ぽたりぽたりと、涙がテーブルに落ちる。

慣れないアルコールのせいで、さっきまで思考回路も感覚も全部がふわふわしていたのに、胸を襲う痛みはこれでもかっていうほどに鮮明だった。

思い出の中の光川さんの笑顔が、声が。私の心を抉っていくみたいだった。

「嫌な顔されないようにっていっぱい言葉飲み込んで我慢して付き合ってきたのに、想われてもいなかったなんて……本当、バカみたい」

冷静に、理性的な恋をするつもりが、終わってみれば全然そんなことなかった。プラスの感情もマイナスの感情も自分でぎゅうぎゅうに抑えつけて表に出ないようにしていただけだ。

気付いたら、泣けてしまうくらいには好きだったんだと自分で思い知り……呆れ果ててしまい、笑うことさえできなかった。
まだ溢れ出そうとする涙を手の甲でぐいっと拭いて、笑みを作った。

「ごめん。なんか久しぶりに飲んだりしたから酔ったのかも」

うつむいたまま涙を拭いていると、不意にその手を掴まれる。
驚いて顔を上げれば、私をじっと見つめている瞳と目が合った。

「え、なに……?」
「別に。ただ、泣いてるところなんか見たら、触りたくなるだろ」

そう言って、私の涙を指先で拭う伊月に、ポカンとしてしまってからその手を振り払った。

「なに、触りたくなるって……」
「触りたくなるっていうより、放っておけなくなるとか、構いたくなるって方が正しいかもな」

伊月が、ふっと表情を緩めて頭を撫でてくる。
ぐりぐりと頭を撫でる手にハッとして、再びその手を払い、目を伏せ口を尖らせた。