極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する



「大事なヤツにはなにも言えないんだろ。ふじえが言ってた」

バッと勢いよく振り向いたのは、今まで誰にも言ったことがないことだったからだ。

確かにそうだった。気付いた頃には私はもうそういう風にできていて、直そうとしても無理だった。

物事をハッキリ言う性格のくせに、大事なひと相手にはなにも言えなくなる。
顔色ばかり窺って自分の気持ちは飲み込んでしまう。

嫌な顔をされたくなくて、迷惑になりたくなくて……。でも、そんなこと誰にも言ったことなかったのに、どうしておばあちゃんは知っているんだろう。

そう思った私の頭のなかを読んだみたいなタイミングで伊月が言う。

「母親がおまえの手を振り払って出て行ったせいだって聞いた。大地がおまえと恋人が一緒にいるところを見かけたときに違和感を覚えてふじえに話したらしい。おまえは何も言わないけど多分トラウマのせいでそうなんだろうって言ってた」

「別に、そんなんじゃ……」と咄嗟に出た否定の言葉を伊月が遮る。

「俺はふじえでも大地でもないし、ただの他人だ。しかも酒の席の話でしかない。意地張る必要もないだろ」

ゆっくりと目を合わせると、伊月は頬杖をついたまま私を見ていた。