「おまえさ、そういう気持ち全部そいつにぶつけたか?」
ハッとするような問いをされ、咄嗟に隣を見た。
すぐにぶつかった眼差しに、一度目を伏せてから首を振ると「やっぱりな」と返された。
「なんか、そんな顔してたからそうだと思った」
「そんな顔って、なに……」
「スッキリしてない顔」と即答した伊月が、私を眺めながら頬杖をつく。
「変だよな。おまえは割となんでもハッキリ言うやつだろ。ガキの頃だっていじめっ子相手に取っ組み合いの喧嘩したって話だし、ふじえだって〝誰が相手でも正義感貫くから心配〟って言ってた。なのに、なんでその男にはハッキリ言わないんだよ。三股なんか、どんなクズから見たって正義じゃないだろ」
核心をついた問いだった。
伊月の言う通りだ。
小学校の頃、上靴を隠した男子には面と向かって〝卑怯〟だと責めたし、職場でセクハラ発言をされたときだってハッキリと否定した。
自治会長と取っ組み合いになったおばあちゃんの血は間違いなく私に通っている。
それなのに、元彼に……光川さんには何も言えないのは……。
その答えが、私の中にあることは知っていた。だって、小さい頃からずっとそうだから。
膝の上に乗せた拳に、意識せずにギュッと力がこもる。唇をかんでゆっくりとうつむいた私に、伊月が言った。



