「うちの親のこと、言ったでしょ。両方とも子ども放って出て行っちゃうような人だったって」
「ああ。父親は大地が産まれる前で、母親は大地産んですぐだろ。いつかふじえが、バカな娘のせいでおまえたちを可哀想な目に遭わせたって、言ってた」
「父親のことは知らないけど、母親はものすごい恋愛体質だったんだよ。すぐ感情が舞いあがっちゃって、そういうことしか考えられなくなるんだっておばあちゃんが言ってた。その末……私や大地なんか見えなくなって、出て行ったの。〝行かないで〟ってすがりついたとき、ものすごい目で睨まれたことも振り払われた手の痛みもまだ覚えてる」
カクテルグラスの脚の部分を指先で撫でながら続ける。
「あの人が母親だなんて思ってないけど、一応血は繋がってるでしょ。だから私も恋愛に夢中になったらああなっちゃうかもしれないって怖くなって、そうならないようにって気を付けてたつもりだったんだけどなぁ……」
私が「なんで今もまだ、忘れられないんだろう……」とこぼした小さな声を、伊月は黙って聞いていた。
あんな最低な男だったのに、それがわかっても気持ちが切り替えきれていないバカな私の言葉を、ただ、聞いてくれていた。
普段の伊月からは想像もつかないような穏やかな雰囲気に誘われるまま、隠してある弱音がどんどん口をつきそうになる。
でも、これ以上何かを話したらきっと後で嫌な気持ちになる。
言わなきゃよかったって後悔する。
そう思い黙ると、しばらくしたあとで伊月が口を開く。



