極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する



「……伊月も?」
「なにが?」
「伊月も、今、私がなにを話しても本気にとらないで、明日には忘れてくれる?」

ゆっくりと視線を移すと、私を見つめる瞳にぶつかる。

茶化さずにいてくれる真面目な瞳はしばらくそのままだった。
そして、目が合い五秒ほどが過ぎたあと、からかうような笑みがそこに浮かぶ。

「おまえに俺がどう見えてるのかは知らないけど。これでも結構ややこしい立場なんだよ。おまえの過去の恋愛話なんか覚えとくほど頭ん中に余裕ねーよ」

若干、バカにするようなニュアンスが含まれているような気がした。
まぁ、立場のある大変な仕事をしてるわけだし、その通りではあるけれど……それにしたって言い方が悪い。

そうムッとしていると、今度は「だから、何も心配しないで話せ」と柔らかい微笑みで言われ、そのギャップにドキッとする。

だって、今の今まで憎たらしいことを言っていた口から、急にそんな優しい声が出てくるなんて誰も思わない。高低差に気持ちがついていけず、心臓が戸惑っていた。

低く響きのいい声は、耳の奥に留まったまま、じわじわと私の心のなかに溶け込んでいくみたいだった。

そのあたたかさに、うっかり流されそうになってしまった自分を癪に思いながら、三杯目のウイスキーを口に運ぶ伊月の横顔をチラッと見て……口を開いた。