極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する



「ううん。元彼も、よくあんな風に潰れてたなって。お酒弱いからすぐ酔っちゃって、いつも誰よりも先に楽しそうになっちゃうの。笑い上戸だからすごく嬉しそうに飲むんだけど、一時間も経つと急に寝ちゃって……って、ごめん」

つい、なにも考えずに話し出してしまったけれど、こんな話、光川さんを知らない伊月からしたらおもしろくもなんともないはずだ。

だから、「つまらないよね。こんな話。おしまい」と終わりにしたのに。

笑顔を作った私をじっと見たあと、伊月は呆れたような笑みを浮かべた。

「そんな気遣わなくても、酒の席での話なんか誰も本気にとらねーよ」

〝だから好きに話せ〟とでも聞こえてきそうな、優しい口調と、細められた瞳に、一瞬時間が止まったような気がした。

別に、光川さんとのことを聞いて欲しいとか、愚痴りたいとか、そんなこと思っていなかった。

光川さんが社内で修羅場を繰り広げた時点で、私の中ではもう終わりにしたつもりだったし、関係は実際に終わっている。

彼から着信は何度もあったけれど、それを全部無視して〝別れます。さよなら〟というメッセージだけ送った。
そこに〝今までありがとう〟という言葉が添えられなかったのは……たぶん、少しの意地であって、まだ私が吹っ切れていなかったからじゃないハズだ。

それに、修羅場から一週間が経ち、休みに入ってから数日が経った今、もう気持ちは整理できている。
吐きだしたい気持ちなんてない。

なのに……伊月があまりに、なんでも受け入れてくれそうな柔らかい雰囲気を出すせいで、胸の奥に埋めたはずの想いが顔を出してしまう。

急に、喉元がぐっと詰まったように苦しくなるから、そこにカクテルを流し込む。
心地いいBGMが流れる店内。グラスをカウンターテーブルに置くと、コトッと音を立てた。