「おまえがいつもひとりで寂しそうだから話し相手になってやってるだけだろう。女性を連れてるなんて初めてだから、こうして知らん顔で聞き耳立ててやってるのに色気のない話ばかりして……おまえは本当に女性の相手が下手だなぁ」
「客のプライベートに口出しすんなよ」
マスターと同じように苦笑いで言った伊月が「こいつ、ふじえの孫」と、立てた親指で私を指す。
ぺこりと頭を下げると、マスターは目を丸くした。
「ああ、ふじえさんの……そういえば面影があるかもなぁ」
「三咲つぐみといいます。あの、祖母をご存じなんですか?」
マスターが笑顔でうなずくのと同時に、伊月が説明してくれる。
「ふじえが転ばされたとき、怪我の手当てで連れてきたのがここなんだよ。近かったから。開店前だったけど、マスターに事情話して入れてもらった」
「あ、そうなんだ。……すみません。祖母がお世話になりました。おかげで今も元気に過ごせています」
立ち上がり頭を下げると、マスターは私に座るように言ってから困ったような笑みを浮かべた。
「いやいや。たいしたことじゃないのに、後日、お礼まで頂きまして。逆に申し訳なかったくらいなんですよ。でも、大けがじゃなくてよかった。私もだけど、歳をとってからの怪我は怖いから」
そう言ったあと、一拍空けてからマスターが伊月に視線を移す。
「でも、そういうことなら、孝一は念願の対面ができたってわけか。よかったなぁ」
「念願の対面……?」と首を傾げていると、マスターが「よし、今日は俺のおごりだ。飲め」と歯を見せる。



