イタリアンレストランより、もう一段階照度を落とした店内を照らすのは、暖色のムーディーな間接照明。
木製のカウンターの前には、背の高い椅子が六脚並んでいる。二十畳弱あるフロアには丸テーブルが二台と、端にソファ席がひとつという配置だ。
カウンターに座って背中側に位置する壁は一面ガラスになっていて、路地を行きかう人たちが見える。伊月の説明によるとマジックミラーらしく、路地側から店内は見えない造りになっているって話だ。
耳ざわりのいいBGMはジャズだろうか。ベースの音がとても綺麗に響いていた。
十八時前という時間帯のせいか、バーの店内には伊月と私の他に、ふたり組の年配男性客がいるだけだった。
しっとりとした雰囲気が心地いいせいで、普段はあまり飲まないアルコールがつい進んでしまう。
外では飲んでも一杯だけの私が、今日はもう二杯目だ。おかげで、いい感じに楽しくなってしまっている。
もしかしたら、雰囲気にも酔っているのかもしれない。このバーは、とても居心地がいいし、イタリアンレストランで感じていた緊張から解放された気分だった。
カウンターの中では、マスターがグラスを磨いている。五十代くらいだろうか。丸眼鏡と、整えられている顎髭がオシャレだ。
「これ、おいしいね。〝ミモザ〟だっけ?」
あまり辛かったりするのは好きじゃないと言った私に伊月が選んでくれたのは、シャンパンベースのカクテルだった。
シャンパンをオレンジジュースで割った感じでとても飲みやすい。



