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「へー。伊月もボクシングやってたんだ。なんかでもそんな感じ。体つきしっかりしてるし。血の気も多そう」
「高校ん時だけだけどな。だから、たまに大地のミット打ちの相手したりしてる。あいつ、細いのに力あるよな」
伊月が傾けたグラスのなかで、大きな氷がバランスを崩しカランと音を立てる。アルコールを飲む姿が画になっていて少し悔しく思いながらもこっそり眺めた。
「そう。あんな綺麗な顔立ちしてる上、細腕なのに力は強いんだよ。大地が中学上がる頃にはもう腕相撲しても勝てなかったし。ミット打ち手伝うって、縁側の前の庭でってこと?」
「ああ。で、たまに夢中になって枝折ったりしてふじえに怒られる」
口の端を上げながら、ウイスキーの入ったグラスを口に運ぶ伊月に「おばあちゃん、あの桜の木、大事にしてるから」と笑う。
ここは、伊月が連れてきてくれた高級イタリアンに隣接されたバーで、店内からそのまま移動ができるよう、扉で繋がっている。
入り口はその一か所だけらしいから、レストランを抜けなければ入店できない造りだ。
というのも、一見さんお断りらしく、イタリアンレストランに何度も通ってやっと案内してもらえる場所らしい。
『イタリアンのオーナーが半ば趣味でやっているようなもんなんだよ。インテリアも自分で海外まで買い付けに言ったって話だし、だから気心知れたヤツしか入れたくないとか言ってた。まぁ、バーの方は儲けとかどうでもいいんだろうな』
そう伊月が説明してくれた通り、バーの店内はとてもおしゃれで落ち着いた空気が流れていた。



