洋画に登場するような立派すぎるシャンデリアがぶら下がっているわけでも、ピアノを生演奏しているわけでもない。
けれど、床のタイルも壁紙も濃いグレー一色で統一されたなか、オレンジ色に灯る間接照明も、控えめに流れるクラシックの曲も、壁際に立つ店員さんの佇まいすらも私が普段使うようなお店とは違っていた。

きっと、ワンランクもツーランクも上の高級店だというのが、なにも知らない私ですらわかる。
……もっと着合いの入ったワンピースを選べばよかったかもしれない。

そんな不安から、この格好で大丈夫かを聞くと、四角いテーブルの右斜め前に座る伊月は、〝なにが?〟とでも言いたそうな顔で私を見た。

「別にどこもおかしく……ああ、さっき家から出てきたときも思ったけど、おまえ、ちゃんとした格好してるとイメージ変わるよな」

〝ちゃんとした格好〟って言うってことは、このお店のドレスコードから外れているわけではないだろうと判断して息をつく。
でもすぐに伊月の言葉が引っ掛かり眉を寄せた。

「普段のメイクがどうとか、家での格好がどうとか言いたいの?」

たしかに、あまり褒められた格好はしていないかもしれないけど……と思いながらも口を尖らすと、伊月は「そうじゃねーよ」と否定してから、背もたれに背中を預けた。

「家でなんか好きな格好してればいいし、化粧なんかしてもしなくてもおまえの自由だろ。最低限のTPOだけ守ってればそれでいい。ただ、印象が変わるって言いたかっただけ。俺はどっちも好きだし」