〝ぐぅ〟と誤魔化すことも不可能なくらいの見事な音に、気まずさやら恥ずかしさを感じ目をそろそろと逸らすと、伊月が「今のおまえの腹?」と首を傾げる。

「伊月じゃないなら私ってわかるでしょ。っていうか、聞かないでよ」
「どんだけ都合のいい耳だよ。腹の音だけ聞かないとか無理だろ」
「そうじゃなくて〝今のおまえか?〟みたいなことわざわざ確認しないでっていう……っていうか、静寂のなか女の子が見事にお腹鳴らしたんだよ。恥ずかしいに決まってるし、聞こえないふりとかそういうデリカシー的な……」

「十五時か……よし、出かける準備しろ。二十分したらここ出るから」

恥ずかしさから、八つ当たりみたいな不満をつらつらと並べている私の声なんて聞こえないみたいに伊月が言う。

まったく違う話を出され、しかも準備しろなんて言われ「は?」と眉を寄せて見ていると、伊月が口の端を上げた。

「少し早いけど、デリカシーがどうのっていうお詫びに夕飯奢ってやる」

弧を描いた口元からは白い歯が覗いている。
いたずらっ子みたいな笑顔で誘う伊月に、しばらく呆然とするしかできなかった。