「あいつシスコンだからな。いつもおまえのこと心配してる。〝本人はしっかりしてるつもりでも、結構騙されやすいところがあるから〟って。大地が言ってたこと、俺もおまえから元彼の話聞いてわかった気がするけど」

馬鹿にするみたいに笑った伊月が、乾いた私の髪を一束手にとり「これ、地毛か?」と聞くから頷く。

気持ちよかったドライヤーに自然と息がひとつもれた。

「うん。おばあちゃんが言うには、父親がこんか髪色だったらしいから遺伝だと思う」
「そういえば、大地の髪もこんな色してるもんな。……うわ、すげー白い」

今度は私の腕に視線を移した伊月が、自分の腕を横に差し出し、それと比べながら顔を歪める。伊月の腕は焼けていて、色も筋張った感じも私とは違っていた。

「そっちが焼けてるんじゃないの? 別にそこまで色白ってわけでも……ねぇ、その前に時間大丈夫なの? 仕事は?」

昨日だって午後まるまる休んでたのに……と思い椅子に座ったまま振り向くと、伊月はドライヤーを片づけながら答える。

「丸一日休める日が週に一度あるかないかだから、こうして時間休とって休み消化するしかないんだよ。一週間で四十時間とか、相当気を付けてないと普通に超えるし」

労働基準法が定めている一週間の労働時間は四十時間。残業時間は一ヵ月で四十時間以内。
それ以上、働くのは基本NGとされてはいるけれど……それをどれくらいの企業がきちんと守っているかは不明だ。

私が勤める会社含め、多くの企業は怪しいところだと思う。

でも、伊月グループは経営側でもある伊月自身がこう言っているんだから、社員にもきちんとそこを守らせているんだろう。
やっぱり、大手ともなるとその辺もしっかりしているのかもしれない。

……と、感心していたところで、お腹が鳴った。