へらっと笑う光川さんに、それはないんじゃないかなと内心思う。

要は二股していたっていうのに謝りもせずにその言い分はない。そもそも二股の時点でありえない。
しかも本命彼女とは同棲して結婚までするっていうのに二股……いや、正しくは三股か。

……三股って。
状況がのみ込めず、頭がクラクラした。

光川さんの言葉を聞いた土井さんが振り上げた手が、結構な勢いで光川さんの頬にヒットする。
平手打ちを目の前で見るのは初めてだけど、思っていたよりも重たい音がするものなんだなと感心した。字にしたら〝バシッ〟だろうか。

社内でお調子者だと評判の男性社員が「ひゅぅう」と、楽しそうな音色の口笛を吹き、周りの社員に注意を受ける。
そんな中、土井さんが間髪入れずに再度振り上げた手を、光川さんは慌てて止めていた。

「土井さん、落ち着いて……っ」
「私が結婚の話題出しても、いつもスルーしてたくせに……! だから私、まだ光川くんはそういう気にならないんだって、だからもう少し待とうって我慢してたのに……っ」

土井さんの声が悲痛に震える。
彼女の目からポロポロと零れ落ちた涙が光川さんの上に降る。それでも周りの目ばかりを気にして焦っている光川さんを見て、それまでの気持ちがスッと冷めた気がした。