結局、私が実家に戻ったのは翌日午後のことだった。
笑顔で迎えてくれたおばあちゃんは、伊月と私のことは詳しくは聞かなかったけれど、ずっとニコニコしていてなんだかいたたまれなかった。

「で、どうするんだよ。仕事」

ちゃぶ台を三人で囲んで、お茶を飲みながら話す。
時間は十三時過ぎで、今日からテストだという大地もあと少しすれば帰ってくるらしかった。

当然のように私についてきた伊月こそ、仕事に行かなくていいんだろうか、という疑問は呑み込んで答える。

「とりあえずは戻るよ。辞めるにしたって、そんなすぐには無理だろうし。誰にでもできる仕事ではあるけど、無責任に放り出したくはないし」

光川さんとのことがあってから今までの私の視野は、たぶん、恐ろしく狭かった。
一度戻ってからも、なんだか伊月とのことでもやもやしていたから卑屈な考え方をしてしまったけれど、光川さんとのことを除けば、あの職場は嫌いではない。

誰にでもできる仕事といえばそうだけれど、それでも、私の名前を呼んで仕事を頼んでくれるひとはたくさんいる。

辞めるにしても、光川さんのことをきっかけにするんじゃなくて、もっと自分でも納得できるような明るい理由を見つけてからにしたいし……伊月とのことも、戻ってくる一番の理由にはしたくない。

「辞める方向で考えながら、派遣とかも考えてみようかなって思ってる。調べてみたら、今もらってる給料よりも派遣で働いた方がいいくらいだし。二、三年の派遣を色々やってみて、そのなかでやりがいのある仕事が見つけられたらそれもいいかもしれないし」