「買った物はそのまま置いておけばいいし、それ以外も必要になるもんは適当にこの部屋にも置いておけよ。鍵やるから。服とか靴は、適当にそろえておくからあとでサイズ教えろ」

とんでもないことを言い出した伊月に「嫌だよ。鍵もいらないし」と答えると、すぐに不満そうな声が返ってくる。

「なんで?」
「こんな部屋の鍵なんか平常心で持ってられるわけないでしょ。いつ落とすか心配で肌身離せないし気が気じゃないよ」

「いいな、それ。俺のことで頭がいっぱいってことだろ」
「高級すぎる物件のことで頭がいっぱいなんだよ。そうじゃなくて、帰りたいのは朝帰りがおばあちゃんや大地にバレると気まずいから。だって、こっち帰ってきてるのは話してあるのに今日帰らないって完全にそういうことになるし」

日中、大地に連絡を入れたのは、突然帰ったら驚くだろうし変な心配をかけないためにだった。

光川さんとのことを知られているから、こんなとんぼ返りをしたら会社でなにかあったと思われてしまう可能性がある。

だから、そうならないようにと先手を打ってメッセージを送ったつもりだったけれど、こうなると何も言わない方がよかったかもしれないとひとつため息を落とした。

このまま帰らなければ、どこに泊まっているんだって話に当然なるし……きっと伊月はそのへん誤魔化さない。

頼んだところで、絶対にバラすと思う。

「まぁ、完全にそういうことだからな」

私の予想通りそんなことを言った伊月が、まだなにも身に着けていない私の体を撫でる。際どい手つきに顔をしかめてその手を止めた。