「あれは、別に逃げたわけじゃないよ。新幹線の時間だってあったし、それに待ってるとは言ってない……」
「仕事片付けてすぐ向かったのに、もうおまえは家にいなかった。駅まで行ったけど、新幹線が出たあとで、呼び戻そうにも文句言おうにも番号知らねーし、大地に聞いても本人から聞けって言うし、黙って帰るしかなかった」

不満そうに言う姿に、胸がきゅんと鳴く。
こんな体の大きい強面の伊月をかわいいと思うなんてどうかしていると自分でも思うのに、胸が疼くのは止められなかった。

日曜日、待ってろとは言われたけれど、私はうなずいていない。だから責められるいわれはないのだけれど……こんな姿を見せられてしまったら、反論は出てこなかった。

代わりに「うん。ごめん」とだけ謝ると言われる。

「だから、逃げないように捕まえとく。で、話ってなに」
「え、ここで話すの?!」

こんな視線を集めながら、今、ここで?!
周りを見渡しても、未だにそこらじゅうからチラチラと見られている状態だ。なんなら足を止めて興味津々に眺めている社員だって見受けられる。

受付の女性社員に至っては、今も私を睨んでいる。

覚悟を決めてきたとは言っても、こんな中で告白するまでの勇気は振り絞っても出せそうもなかった。

「あ、もしかして時間がない? それなら仕事終わったあとでも全然大丈夫だから、出直すよ。ごめん、私、勢いで朝電話しちゃって、伊月は仕事があるのに邪魔……」

「そうじゃない。俺が待てない」

伊月は意外と気を回す。だから、いつもだったらこんな注目を集めている状態で話せなんてことは言わない。
そう考えて、急かす事情があるのだと思ったのだけれど、伊月はそれを否定した。