「ロマンチストで、やたら愛を語ってくる人だったの。でも、なにかの話の流れで〝結婚〟て話題になると急に黙り込んだりして……その時は、ただ単に慎重なだけかと思ってたけど、今考えると怪しかったのかも……」
「怪しさしかねーな」
「怪しさ満点ねぇ」
ちゃぶ台に突っ伏したままの頭に、上からふたりの声がずしりと重たくのしかかったみたいだった。
二年も付き合っていたのになんにも気付けなかったなんて……と自分のまぬけさに大きなため息をついたとき。
「姉ちゃん……?」と、呼ばれ顔を上げる。
見れば、ワイシャツにアイボリー色のベスト、そしてグレー系のチェックのズボンという制服に身を包んだ弟の大地が目を丸くして立っていた。
五つ年下の大地は、私と一緒に父にも母にも置き去りにされて以来、おばあちゃんに育てられた。そして、まだ高校二年生の大地は現在進行形でここで育ててもらっている。
我が弟ながら、とても整った顔立ちをしていて、その完成度はそのへんのアイドルにも負けないほどにカッコ可愛い。
よくアイドルが〝きっかけは家族が勝手に事務所に履歴書を送りつけたから〟なんて言っているけれど、あれはなんらおかしな話ではないと納得できるほどに、うちの大地はカッコ可愛い。
姉バカみたいなところもあるにしても、バレンタインには毎年大量のチョコをもらってくるから、世間一般から見てもそうなんだろう。
正直、すごく鼻が高い。



