極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する



今は八時過ぎ。伊月が何時に出社しているのかは知らないけれど、シフト勤務がない仕事内容を考えればこの時間帯ならギリギリ仕事に行く前のタイミングに滑り込めるかもしれない。

でも、私と伊月は結局番号を交換していないから、私がかけたところで、伊月からしたら知らない番号からの着信になる。

怪しんで出ない可能性もある。
時間帯も考慮すると、繋がる確率の方が低い。

それでも……と、ひとりでうなずき席を立つ。デッキから電話をかけてみて、五コール以内に電話が繋がったら、会いたいって伝えよう。

出なかったら、家で待機にしよう。

そうひとりで決め、デッキに立ち……大きく深呼吸をしてから電話をかけた。

携帯のなかからコール音がする。その音がやけに大きく聞こえた。
ガタガタと細かく揺れる車内。気を抜けばその場にしゃがみこんでしまいそうな緊張のなか耳を澄ませていると、三回目のコール音が途中で途切れ肩が跳ねた。

『……はい』

聞こえてきた伊月の声に、それだけで想いが溢れ泣きそうになる。
それをぐっと堪え「私……つぐみ、だけど」と名乗ると、伊月は少し黙った。

伊月がいる場所は静かだったけれど、伊月のオフィスがどんなだか知らないだけに、もう社内なのかまだ家なのかの判断がつかない。

新幹線のデッキから電話をかけるなんて初めてだ。だから、電波状況が悪いのかもしれない、と思い「もしもし? 伊月、聞こえてる?」と聞くと、ややしたあとで『ああ、聞こえてる』とはっきりした声が返ってきてホッとする。