極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する



それなのに、こんな名刺一枚で心が揺すぶられるのに、私はどうして伊月に手を伸ばさなかったんだろう。
想いを伝えなかったんだろう。

〝でも〟〝だって〟って、ダメだった時のことばかり先回りして考えて、自分が傷つかないようにって必死だった。また拒絶されたら……立ち直れなくなるから。

だけど、違う。
選択肢はなかったわけじゃない。

私が自分で、手を伸ばすものと伸ばさないものを勝手に決めていただけだ。
どうせ届かないからって……諦めてただけだ。

誰よりも自分自身が〝私〟を特別扱いしてこなかったのだと初めて気づく。
〝こんな私なんて〟って〝私〟を一番見下していたのは、誰でもない自分自身だ。

可能性を狭めていたのは、私だ。


きっと、今、手を伸ばさないと後悔する。
母親に手を振り払われたときよりも、ずっと大きな心の傷になる。

たった一度、母親につけられた傷が今でもこんなにジクジクと痛むのに、これ以上傷を負うのはもう嫌だ。


あたたかくて優しい伊月とのことで傷つくなんて……嫌だ。