「本命と同棲してたんだろ? そりゃあ、浮気相手に家になんか来られたらまずいもんなぁ」
「浮気相手が家なんて尋ねてきたらあれだものねぇ。なんだっけ? 阿修羅?」
おばあちゃんに「……修羅場」と力なく訂正を入れていると、伊月が「電話とかは? もしかして、してくるなとか言われてたんじゃねーの?」と聞いてくるから……俯いて口を開く。
「電話は、あまり好きじゃないって言われたから、かけなかった。会社でも顔合わせてたし、プライベートでだって週二で会えていれば、わざわざ電話することもなかったし」
「あらぁ、それは相手にしたら都合よかっただろうねぇ」
「勝手に連絡もよこさない、家にも来たがらないイベントも過ごしたがらない。浮気相手にはうってつけだよな」
「そんなつもりなかったのに……!」
遠慮なしに色々言ってくるふたりを前に、そう悲痛な叫びをあげ、ちゃぶ台に突っ伏す。
ひとりで考えていたときには気づけなかったけれど……言われてみればたしかに、と冷静になった頭で思う。
誰かに説明することで、頭の中が整理できるっていうのはこういう事なのかもしれない。
あまり踏み込まないようにとか、深追いしないようにっていう強迫観念みたいなものがあって、だから恋人にもそう接してきた。
自分の感情うんぬんよりも、まずは相手が望むように……って。嫌な顔をされないようにって、そればかりだった。
でもそれは今考えてみればとても都合がいい女で……だから、浮気相手になんてされていたんだろうか。



