「おまえだって俺のこと嫌いじゃないだろ。そういう顔してる」

落ち着いた声で言った伊月が、手の拘束を解くと、私の涙を拭う。
優しく涙のあとを拭いてくれる指先に胸が苦しいくらいに反応していた。

トクトクと心地よく動く心臓が次々に涙をにじませる。伊月は、そんな私の目尻や瞼、おでこにキスを落とし……最後に唇を重ねた。

「……なぁ。帰るなよ」

キスしながら、私を求める目で言う伊月に、ゆるく首を振る。
でも、そのたびに〝帰る〟という言葉を止めるように唇を塞がれ、結局一度も答えることはできなかった。


〝つけ入る〟なんて伊月は言ったけれど、そんなの嘘だ。

だって伊月は私の気持ちをとても大事にしてくれたし、私に触れる指や唇だって全部が想いに溢れていた。

幸せすぎて震えそうなくらい、大事に大事に扱った。

想われるって、こういうことなんだと……恥ずかしいけれど、私は伊月に抱かれて初めて知った。


〝つけ入る〟なんて嘘だ。
だって……私はとっくに伊月が好きだ。