極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する



絶対に熱い窯を素手で持ったおばあちゃんは「あちち」と言いながらも余裕のある顔で、それを、シンクに敷いた濡れ布巾の上に置いた。

いつも思うのだけれど、おばあちゃんの手の皮はおかしい。
炊きあがったばかりの窯なんて絶対に持てないはずだ。

水で濡らしたしゃもじで、炊き上がったもち米をかき混ぜながら「誰かいないの? そういういい人」と聞かれ、苦笑いをこぼす。

〝いないよ〟という言葉が、声になる寸でのところで止まったことに、後から気づき自分自身で驚く。

どうして言えなかったのかがわからず、気持ちの悪さを感じて眉を寄せた。

自分の全部を見せられる相手なんていない。いない、のに……一瞬、頭をよぎった人物に戸惑う。
この間、佳乃と話しているときからやたらと頭の中をチラつく顔に困っていた。

家族に混じって一緒に過ごしたりしたからだろうか。ピンチを助けてもらったりしたからかもしれないし、慰めてくれる手が思いのほか優しかったせいかもしれない。

それにしたって、なんで……と考えていたとき、おばあちゃんが「丁度よく炊けたわぁ」と嬉しそうな声を出す。

おばあちゃんの持つしゃもじは、窯のなかのもち米を切るようにかき混ぜていた。

「本当だ。もち米5の白米1くらいの割合だっけ」
「そう。もち米だけだと時間が経つと固くなっちゃうからねぇ。少し白米混ぜてやるといいのよ」

手際よく混ぜる様子を眺めていると、おばあちゃんがふいに言う。

「仕事、なにかあったなら辞めて戻ってきてもいいのよ」
「え……」

顔を上げると、おばあちゃんは窯に視線を落としたまま微笑む。