『一応、ドアホンをつけた方がいい』と言いだしたのは伊月だった。
大家の男は厳重注意に終わっただけで今も南側のアパートの一室に住んでいる。
だから、『姑息そうなヤツだったし、また俺とか大地のいない時間帯を狙ってくる可能性もある』というのが伊月の言い分だった。
うちは築何十年っていう、昔ながらの日本家屋だ。
当然、インターホンだって画像つきではない上、会話すらできない。だから、インターホンが鳴れば、相手も確認せずに玄関を開けていたけれど、それは今の時代物騒すぎるかもしれない。
取り付け費用含めて五万もあればってことだったし、それなら私が出せる。大地も私もドアホンの取り付けには賛成だったし、伊月を通して業者にお願いすることにした。
『伊月さん、契約一件取れてよかったっすね』と大地がふざけると、伊月は『うちはドアホン扱ってないから手間にしかなんねーよ』と笑っていた。
あとから、『忙しいのに申し訳ないから私が直接業者と連絡とるよ』と申し出たら『あんなの言葉のアヤだろ』と、真面目にとるなと呆れて笑われてしまったけれど。
警察沙汰になったその日の夜、伊月が電話で業者に話をつけてくれて、取り付けはその翌日に行われることとなった。
「もうそろそろかな」
お風呂掃除を済ませて時計を見ると、十八時を指していた。ドアホンの業者は十八時半にくる予定だ。
電気系統の工事も含むのにずいぶん遅い時間だな……と疑問を抱いてから、きっと伊月が無理を言ってねじ込んでくれたんだなと、笑みをこぼす。



