「え、なに……?」
なにが起こっているのかがわからず呆然としてから我に返り、慌てて明るい声を出した。
「伊月、慰めてくれなくても私なら大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけで……」
「こんなに震えてるくせに強がるな」
すぐに遮られ黙ると、伊月が言う。
「おまえはたしかに威勢はいいヤツだけど、女だろ。男相手じゃ圧倒的な力の差があるし、怖くて当然だ」
私をすっぽりと包んでしまう大きな体に抱きすくめられ、貼りつけていた笑顔が消えていく。
たしかに少しは驚いたけれど、あんなの別に大丈夫なはずだった。なのに……伊月がこんな風になぐさめてくるから、隠していた弱さが出てきてしまう。
こぼれてしまった涙を見せたくなくて、伊月の肩におでこをくっつける。そして、まだ震えている手で伊月を抱き締め返した。
「さすがボクシングやってただけあってしっかりしてるね」
無言で抱き締め合うのも恥ずかしくて、わざと軽く言う。
「今もそれなりには鍛えてるから」
「もしかして腹筋われてる? なんか硬い気がする」
「うっすらって程度だけどな」
ポツポツ会話を交わしていると、次第に気持ちが落ち着いていくのがわかり、それが不思議だった。
伊月と出逢ってまだ間もないのに、なんでそんなひとに抱き締められたからってこんな安心してしまうんだろう。



