極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する



「……なに?」

自分自身でもその反応の大きさに驚きながら振り向くと、こちらも驚いた顔をした伊月が私を見ていた。

「いや、どこにいくつもりか聞こうと思ったんだけど……おまえ、大丈夫か?」
「え、ああ、うん。ごめん、急に掴むからびっくりしただけだよ。髪、シャワーしたまま乾かしてなかったからドライヤーかけようと思って」

心配を浮かべている瞳に笑いかけても、伊月は表情を変えなかった。

「顔色が悪いし、手も震えてる」
「え……ああ、ほんとだ」

なんで自分で気付かなかったんだろうと不思議に思うほどガタガタと震えていて驚く。
安心して、今頃になって恐怖が一気に襲ってきたのかもしれない、と思い苦笑いをこぼした。

「通報とか初めてだったし、それでかも。伊月、110番なんてよくかけられたね。私だったら躊躇しちゃいそう。それに、警察官間近で見るのも初めてだったし……おばあちゃんとか大地に話したらびっくりするだろうね」

「つぐみ」

「足払い、咄嗟だったけど結構うまくいくものなんだね。大地に教わっておいてよかった。でも、どんな技にしても私自身にもっと筋肉とかついてないと、下手したら相手に負わせたダメージ以上のダメージが私にくる……」

「つぐみ」

うつむいたままペラペラと話していた私を、伊月の強い口調が止める。
その声にビクンと肩を震わせると、伊月は私の腕をぐいっと引き、前のめりになった私を胸で抱き止める。

おでこが伊月の肩口にぶつかり、目を瞑ると同時に、背中に回った腕にギュッと抱き締められた。