「痛い……っ」
思いきり足払いしたせいで、私の足首にも相当な痛みが残っていた。相手がまたもやしみたいな、ほぼ骨みたいな体格だったのがいけなかったのかもしれない。
骨同士がダイレクトにぶつかったような、痺れに近い痛みに思わずしゃがみ込みそうになる。
一方、男の方はバランスを崩しただけだったからすぐに動けるようで……気配を感じて振り向いたときには、拳を振り上げている男の姿があった。
「この女……っ」
逃げられない――。
殴られることを覚悟して、両手で頭を覆う。どれくらいの衝撃がくるのかがわからなくて、ただ目をつぶり縮こまっていたとき。
「つぐみ……っ!」
突然、必死な声に名前を呼ばれて顔を上げれば、伊月が男に掴みかかったところだった。
胸倉を掴まれて「んぐ……っ」と苦しそうな声を上げた男に、今度は伊月が拳を振り上げるから慌てて止める。
暴力沙汰はダメだ……!
「い、伊月、待って……っ」
「は? おまえ、こいつになにされたかわかって――」
「まだなにもされてないから! 殴ったら伊月が悪くなっちゃうから!」
私の足払いくらいならまだしも、伊月の鉄拳が正当防衛となるほどなにかをされた自信はない。
伊月の立場を考えればここで殴ったりして問題になったら大変だ。週刊誌くらいには載るかもしれない。
そんな考えから必死になって腕にしがみつき言うと、伊月は納得いかなそうに顔を歪め……それから、チッと思いきり舌打ちした。



