「その頃からふじえと暮らしてんの? 親は?」
伊月は、おばあちゃんと結構仲がいいみたいだけど、うちの家系の話をどこまで知っているんだろう。
留守番を任せられるくらいだから、弟の大地とも面識はありそうだ。
その中で、親の話にはならなかったのかな……と思いながら口を開く。
なんとなく言いにくい話題ではあるものの、隠す必要もない。
「父親は、私が三歳のときに出て行ったらしくて、母親もその二年後にいなくなっちゃったから、ふたりともあまりよく覚えてない。だから、ほとんどおばあちゃんに育ててもらった感じ」
両親がそれぞれ出て行ってしまったのは、物心ついてすぐだったし、ふたりとも、ほとんど覚えていないのは本当だけど……ひとつだけ忘れられないことがある。
夜になるとメイクをし派手な服に身を包み部屋を出ていく母親の後ろ姿だけは、鮮明に覚えている。
私たちを心配してくれたおばあちゃんとよく喧嘩をしていたのを聞いていたから、母親が夜な夜ななんで出て行くのかは知っていた。
だから、出ていく後ろ姿を見る度に、少し冷たい気持ちになった。
〝他の男の人と会うために、私たちを置いていくんだな〟って、幼心にも感じたからだ。
まだよく理解できていないなりに、自分たちよりも男の人の方が大事なんだなっていうのはわかったし、それは、日々の母親の態度から私自身ずっとどこかで知っていたとも思うのだけれど、実際に目にすると結構な衝撃だった。



