「でもおまえも女だろ。力じゃ敵わないこともあるし、顔に傷でもつけられたら嫌だろ」
「……それは、嫌だけど」
「相手見ずに正義感突き通すから見ててハラハラするって、ふじえが言ってた。あんまり年寄り悩ませるなよ」
真面目な顔と声で言っていた伊月は、最後ふっと表情を緩める。
見た目からすると、伊月は強面だし学生時代なんてケンカに明け暮れてましたって感じの風貌なのに、言っていることは正論だった。
よく知りもしない男にすごく真っ当なお説教をされてしまい、なんとなくどんな顔をすればいいのかわからなくなりながら口を開く。
「でも、言っておくけど、おばあちゃんだって同じようなものだからね。六十超えてから自治会長と喧嘩になって、うっかり手が出たところを周りに止められたくらいなんだから」
言い訳みたいに言うと、伊月は眉を寄せ「それ、本当か?」と、信じられないとでも言いたそうな顔をした。
「本当。だから、私のこの性格はおばあちゃんのDNAだし、仕方ないと思う。今思い出したけど、幼稚園の頃、私、名前がひらがなだからって理由で男の子に意地悪されたことがあったんだけど、おばあちゃん、幼稚園まで乗り込んできてその子叱ってたもん」
だから、この喧嘩っ早い性格をおばあちゃんに責められるのはおかしい。
そう鼻息を荒くしていると、伊月は「幼稚園?」と不思議そうに繰り返した。



