帰路。

 ある日に汐里の身の上を聞いた公園だ。
 声を掛けるべきかはやや悩んだが、勝手をした謝罪もある為、琢磨は恐る恐る声を出してみようと――したところ、汐里の方が先に「あーあ」と声をあげた。

「もう、ほんとに結構な勝手をしてくれたわよね。ちょっと呆れちゃったかも」

 耳打つそんな台詞に――否、声に、琢磨は言葉を返せないでいる。

「もうちょっと気の利いたやり方、なかったのかな? あれじゃあ悪者じゃん」

 もう、いいだろう。

『別に良いんだぞ、泣いても』

 そろそろ、我慢も限界だろう。

「泣いてもって……さっき、結構泣いちゃったし? 誰かさんが代わりにわんわん涙してくれたおかげで、身体の中に水分残ってないし? 誰がこんなところで泣くって?」

『生憎とここには俺しかいないからな。いや、俺だって居るようで居ない存在だ。誰に気を遣う必要もないだろ』

「だから、私は泣きたくなんて…泣きたく、なんて……」

 琢磨は言う。

 よく頑張った、と。

 どれ程までに我慢していたのか。
 どれ程までにその身一つで抱えていたのか。
 ギリギリの瀬戸際を保っていた支えなんて、身近で見守って来た琢磨の一言の前には、簡単に決壊してしまった。

 みっともなく涙を流して。
 みっともなく声を上げて。
 みっともなく鼻水まで垂らしながら、汐里は一人。

 けれども独りではない、奇妙な感覚の中で。
 それを認めてくれる人なんて、本来なら居なかった筈だ。
 一人でやって、一人で泣いて、一人で泣き止んで。

 そうなるのが普通だった筈だ。
 知音には見せられない。

 いや。

 独りであれば、頑張る選択肢すらなかったかも分からない。

「頑張ったのに……大好きだったのに…もう、二度と会えないのに……私、ちゃんと頑張ったのに…うぅ…」

『あぁ、お前はよくやったさ。本当なら、お前が戻って来ることは諦めてた。なのに、戻っても来た。お前は本当に強い女の子だ』

「うぅ、琢磨ぁ…」

 短くても、その過程をずっと傍らで目にして来たからこそ分かる気持ち。
 それを、汐里も分かっていたからこそ流れた、ごくごく自然な涙だ。

 そんな様子を、

「……うん」

 少し遠くの方から覗く影がひとつ。
 十年にもなる仲である知音にさえ、それは知り得ぬことであった。
 怪我をした時、嫌なことがあった時、どんなことがあっても、これほど感情的に無く汐里を見たことはなかったからだ。
 それほど本気で、全力で、けれども失敗をしてしまったからこそ。

 しかし、それはきっと、もう一人の存在があったから。

 木々の間から覗いた先――大親友の傍らに、見たこともない筈の男の影が一つ、見えた気がした。
 それに頷いて、ありがとうと心の中で礼を言って。

 一人、自分の家へと帰って行く。