解説書の一ページ目に綴られたそんな注意書きを読んだのは、美希と知音は腹を抱えて笑いながら、汐里は涙目でと、全く異なる結末で以って四組の部屋を出た後のことだった。
 五組のやっているクレープ屋にて甘い物を頬張りながら、汐里は溜息を吐いていた。

「行かなきゃよかったわ……何で手が走っていくの、何であの人形動くの、何で勝手に砂嵐点くの、何で――」

「あらら。これはちょっとまずかったかな」

「だね。ここまでは初めてって言うか――遊園地かってくらい気合入ってたね」

 もう帰る、と首を尖らせる汐里を、何とか宥めんと必死になる二人。美希の食べていたストロベリークレープを口に突っ込んでやると、美味しいと言って表情が一転した。
 コントか何かを見せられている気分になって、琢磨はやれやれと肩を落とす。

『仕掛け人側がビビってたもんな。女の子らしいとこあるじゃないか』

(し、心外もいいところよ…! それに、らしいってなによ。あるもん、胸とか)

『聞いてないよ。触るな見るなと五月蠅い奴がそれを出すな』

 心外なのはこちらの方だ、と言いたい気分になる。
 身体が入れ替わってしまう状況に於いては、目を瞑りたくともそうせざるを得ない境遇にあるわけなのだから、中にいることを受け入れてくれたのなら、風呂だって我慢をして欲しいものだ。

 そんな胸中の訴えは、しかし汐里にはしっかりと伝わっていて、

(ふんだ。もうお嫁に行けないからって、何かプライドみたいな最後の砦が、揉ませるのだけは勘弁って悲鳴を上げてるのよ)

『揉むとか誰が一言でも言ったよ? ただ洗うだけじゃないか』

(ただって――だけって…!)

 お化け屋敷への恨みは、次第に琢磨への怒りへと変わり始めていた。

「そういえば、何でお化け屋敷に入ろうってなったんだっけ?」

 ふと、知音が尋ねた。

「えっと、ゆっくりできる場所を探そうってなって、とりあえず廊下を歩いて――あ」

 ここにいたる道程を思い返していた美希が、しまった、と慌てて口を閉ざした。

「遅いわよ、美希。さてどうしたものかしら。目的から外れた挙句、私をこれだけ楽しませてくれたお礼はしなきゃね」

「あー……く、クレープ代、出すから」

「よろしい」

 怯える美希に、それを悪い笑顔で見下ろす汐里。
 立場が逆転した瞬間だった。