「あの時君は、変わりたいと願った。いや、そういう風な願い方をしたのかどうかは俺には分からんが、『どうせなら』って考えは、結果的に変化へと結びついている。だから踏み出して、だから明日の予定もゲット出来た」

『……仲村さん』

「今のままではだめだって考えがだな――」

『ちょ、聞きなさい。行き過ぎよ。そこ、トイレ』

「おっと」

 階段を降りてしばらく、気が付けば風呂場への扉を通り過ぎ、お手洗いまで来てしまっていた。同時に、一つ忘れていることにも気が付いた。
 振り返って風呂場――を通り過ぎ、琢磨が入ったのはリビングだった。

(お節介、とは言って欲しくないものだけど)

 そう、汐里に断っておいて、

「夕飯前に、お風呂入っちゃうね」

 努めて汐里らしく、いつもの本人らしく。
 今までは言って来なかったことを、口にした。

「え、えぇ、どうぞ……あ、今日はまだ掃除――」

「いいよ、私がやる。じゃね」

 料理の手を止め、目を丸くする()にそう言って手を振って、琢磨はリビングを後にした。
 内側では、汐里が「むむむ」と納得いっていない様子。

『お節介』

「それは言うなって言ったろ。悪いとは思ってるけど、後悔は一切してないぞ」

 変化を望むのなら、これだけは避けてはいけない。

『……じゃあ、やっぱり?』

「あぁ。正体までは分からんが、あの人が君の母親でないことは分かった」

「そ、そう……」

 分かっているのなら、どうしてさっきのような真似を?
 汐里には、その行動の意味があまり分からなかった。