どれだけの時間を一緒に過ごしたと思ってるの。
花平くんのいいところ、100個は余裕で言えるもん。
ずっと近くで見てきた。
ずっと近くにいてくれた。
いつだってあなたは、わたしの心の中にいる。
どこにいたってそれは同じ。
……だから。
足を止めると、影の中の私たちもピタリと止まる。
その2つの影の先を目で追いながら、私はずっと心に留めていた想いを告げた。
「幸せになれよじゃなくて、幸せになるんです。私も、花平くんも」
誰かのためでもなく、誰かを幸せにしたいからでもなく。
自分のために、自分を幸せにするために。
これからはそうやって生きていくということ。
自分でもびっくりするくらい、心の中はおだやかだった。
「……幸せになりましょう、お互いに」
初めて自分からしたキスは、届かなくて不格好に終わってしまった。
さんざん笑われて、別れる寸前までそれはネタにされたけど。
「茅森、じゃあな」
「さようなら花平くん」
最後だけはちゃんとしないとって私は笑顔をつくる。
ハチミツ色から薄暗く変わりつつある烏羽色の空はどこまでも続いていた。



