不器用オオカミとひみつの同居生活。



そこからは他愛もない話をした。


きのう私が催涙スプレーをぽっけに忍ばせていたことを伝えたら、

もう深夜に入るのやめろって言われたりもして。



「つーか俺んときも持ってたわけ」


「え?いやいや、そんな……あははー……





備えあれば憂いなし、です」

「ドヤ顔やめろ」


私にキリッとした顔は似合わないのか、ふっと笑われる。



「私、花平くんの笑った顔好きですよ」

「バーカ」

「あ、照れてるときのバカだ」



一歩一歩を踏みしめながら、一言一言を噛みしめながら。

残り時間は少なくなってきた。



「ねぇ、花平くん」

「なに」

「最後になりましたが……私、花平くんと出会ってから一度も不幸だと思ったことなんてありませんからね」


「へえ、最後になったのに?」

ひさしぶりにみる意地悪な顔。


だから私も首をかたむけ、いたずらっぽく花平くんを見上げた。



「好きなものは最後まで取っておくタイプなんです」


「ああ……俺もだわ」


思わずくすりと笑ってしまった。

知ってるよ。



「何回一緒にご飯食べてると思ってるんですか」