不器用オオカミとひみつの同居生活。




「……なあ、見ているか?綾人はあんなにも立派に成長していたよ。さすが君の子だ」



受け継いだのは、どうやら容姿だけじゃなかったらしい。

君のように、心の優しい子になっていたな。





「あら、あなたの子でもあるでしょ」


さあっと風が通り抜けるように、そんな声が耳に届いた。

おどろいて振り返るが、もちろん彼女の姿はない。



でも、すぐそこに美里がいて、

誰よりも子供のように笑っているんだろう。



「……ああ、そうだな。美里」


白衣のポケットに押し込んでいた端末を操作し、耳に当てる。




「刈谷か?今度、診てほしい患者がいるんだ。

……え?いや、違う、お偉いさんでも何でもない、落ち着け。俺だ。



……そう、俺を診てほしいんだ」




美里はこの世にたくさんのものを残していった。


病気、事故、殺人、俺、綾人。

絶望も、希望も。みんな一緒くたにして。



「まだやり残したことがあるからな」


すこしでもその絶望を取り除けるように。


この場所で、この手で。

それが俺にできる唯一の贖罪でもある。



……そして、君との約束を守るために。


俺はまだ死ぬわけにはいかない。



だからもう少し待っていてくれよ。


そのときがくれば、真っ先に渡しにいくから。



この手で紡いだ……







──────幸せの花束を、君に。