不器用オオカミとひみつの同居生活。




水分を吸ったハンカチは重くなっている。


端に書かれた『カヤモリ』という、つたない文字。

その後ろの文字が塗りつぶされていることに、それが意味することに気づいてしまった。



「憂さんは自分の名前が嫌いなのだろうか」

「……いえ。好きですよ」


彼女の柔らかな瞳が、俺から綾人に移る。



「好きだと言ってくれる人がいるから」



やはり似ていると思った。


容姿も話し方も異なるのに、彼女はどこか似ていた。

同じようなことを言われたからだろうか。

それだけではないような気もするが、


なにより、この子が息子にとって特別な存在であることは明らかだった。



「……優しい貴女に負けないくらい、良い名前だ。綾人、憂さんを大切にするんだぞ」


今さら親面する自分に思わず苦笑してしまう。

都合がよすぎるだろう、と。


それでも綾人は俺をなじったり、笑ったりすることはなかった。




「……言われなくても」