「お疲れさまです」
通りすがりに声をかけられ、はっと我に返る。
振り返った先にはすでに遠くなった白衣の後ろ姿。
返事を待つ暇すら惜しいことは医者である俺もわかってはいるが、理由はきっとそれだけではない。
17年前のあの日から、俺に対する嫌悪は表面化されている。
あの場にいた看護婦から他の看護婦へ、看護婦から医者へ、そして俺にも伝わってきたのは
『極悪非道の独裁者』
というなんとも安易なレッテルだった。
しかもそれが事実であるから何も言い返すことはできないまま、今日まで院長を続けている。
そして俺は最近、身体に妙なだるさを感じるようになった。
もう長くないのかもな。
そこまでして生きる意味もないので、検査を受けようという気にもならなかった。
あの日からずっと俺の時は止まったままでいる。
人の命を救うこの場所で、誰よりも人の命を重んじなければならない自分が。
まるで醜いケモノのように思えた。
光から遠ざかるように、院長室とは真逆のほうへ足を速める。
どこまでもつづく白い廊下が、まるで俺をあざ笑いながら追いかけてくるようだった。



