*
俺の母親はろくでもない女だった。
『獅子は我が子を千尋の谷に落とす、ってね』
女以前に人としてクズだった生みの母親は、まだ俺が小学生のとき、男をつくって家を出ていった。
顔や身体に青アザができなくなったので、
兄や俺からすればありがたかったが……
親父はかなりショックを受けたようだった。
心にできた穴を埋めるように、死に物狂いで医者になり、早い段階で病院を受け継いでいた親父。
『ああ、よかった。これでやっと眠れる』
同じく修行を積み医者になった俺があとを継げば、親父は安心したかのように数日後死んだ。
末期がんだった。
だから、残された肉親は兄だけ。
『オレはやだね。お前がやれよ』
しかし引きこもりだった兄とはもう何十年も連絡を取ってない。
生きているのかすらわからなかった。
『この疫病神。返せ。返せ。“美里を返せ!!”』
美里の親族からは恨まれており、院長でありながらも暇だと感じる時間が増えていった。
かぎりなく少ないプライドから、忙しいフリをする時間も比例して。
『じゃあね、徹さん』
『どうしろってんだよ』
美里も死に、
息子は家を出ていったきり帰ってこない。
そして俺は──────



