しかしそんなことはどうでもよかった。
美里のいない人生など考えられない。
たったひとりで子供を育てられるわけがない。
「俺は……
君と一緒なら、やっていけると思ったんだ…!」
冷たい手がそっと頬に触れた。
透き通るような青白い肌の向こうで。
優しく、朗らかに。
蒼い瞳が、黒く艶やかな髪が。
俺が愛したそのすべてをまるで目に焼き付けろと言わんばかりに、ぐっとベッドから身を乗り出した。
最後の力で、最期の言葉を紡ぐために。
「徹さん、聞いて──────」
俺の為す術もなく、子を産み落としたあと、美里は死んだ。
妊娠中毒症。
それが彼女の死因だった。
老死ではなく、美里がこの世からなくしたがっていた病気によって。
病気も、事故も、殺人も、俺も、子供も。
すべてを置き去りにして、
花平美里はこの世を去っていった。



