「……だめよ」
美里の声がして、はっと我に返る。
いつのまに産科に辿り着いたのか、なぜ美里がこんなにも苦しそうにしているのか。
とっさに理解することができなかった。
「私は産むから」
その力強い言葉に、さきほどまでのやり取りが空っぽの頭に戻ってくる。
……そうか、そうだ。
思いだした途端、看護婦の制止も聞かず、俺はもう一度美里の肩をつかんだ。
「子供は諦めるんだ!」
それでも首を横に振るう。
静かに、それでもたしかに。
美里はすでに決めているようだった。
「子供はまた作ればいい。チャンスはいくらでもあるだろう!」
「もうチャンスはない、それはあなたもわかってるでしょ」
「っ……おい、母体を優先させろ!これは命令だ」
近くにいた看護師が怯えと軽蔑の表情を見せた。
当たり前だ、非道だと罵られても可笑しくないほどのことを言っているのだから。
自分がどれほどのことを言っているのか、自覚はあった。



