「もう、ほんとに風邪引いても知らな────」


巻いて巻いてを繰り返す私の手が止まったのは、抱き寄せられたから。


ぎゅっとごく自然な勢いで、私は彼の胸に
顔をうずめるような形になって。


あまりにも脈絡がなくて
どうしたら良いのかわからず混乱した。


それに、こんなふうに誰かに抱きしめられるのは初めてだった。






「あったけぇな、茅森」


顔の見えない声があたまの上から降ってくる。


頭にまわされた手は冷たかったけど、
どこかあたたかさも帯びていた。


まだ身体の芯から冷え切っているわけじゃない。



「……間に合ってよかった」



この日の夜が今期最低気温だったのを知ったのは後日のこと。


そんないつ永遠の眠気が襲ってきても、

そして通りかかった人に誤解されてもおかしくない状況で。



私と彼……花平くんは、
しばらくの間そうしていたのだった。