どすんと背中に重みがのしかかり、すぐ後ろで美里の脳天気な声がした。



「院長と院名は継続してあなたでしょ、でも名字と実権を握っていくのは花平、つまり私」


「すごい」

「でしょ?」

「君のお父さんでさえ濁していたのに、本人の前で実権どうこう言えるその精神がすごい」



メモを背中越しに突き返すと、冗談だってという声が返ってきただけだった。



「でも本当にすごいよね、まるでツタみたいに絡みあってる。こうなったらもう離れられないよ。残念だったね」

「なぜ俺が離れる前提なんだ」


「ふふ」

「……何が可笑しい」



美里はいつもこんな感じだった。


端から見れば、俺と彼女はさぞかし不釣り合いだったろう。


立場や性格が原因で周囲から疎まれていた自分に、同じような立場であってもその容姿や性格から好かれていた美里。



正直、美里には他にもいい選択肢はあったはずだ。


なのに、なぜ俺を選んでくれたのか。


その理由は今の今まで教えてはくれない。



くすくすと笑って、『女は少しばかりヒミツを持ってるほうが魅力的なのよ』と言うだけだった。