誰からも望まれなかった自分に誰かを幸せにする力なんてない。

茅森の幸せを想うなら、俺のことなんか忘れるべきだと思ってた。


……それでも、







「──────寒い」


俺の言葉に反応して、茅森が顔を上げた。


目の前の自分がじわりと滲んだ。

映り込んでいた蒼が、瞳の中でゆるんでいき……雫が落ちる。


それでも透明なキャンバスに広がる蒼はたしかにそこにあった。

散々、いとわしく思われていたその色を、俺ははじめて綺麗だと思えた。



「不幸になろうと思って生まれてくる人なんて一人もいないよ。みんな、幸せになるために生まれてきてる」


小さな手が背中に回って、ぽんぽんとあやすように優しくリズムを刻む。


その手つきは、いつかの夜を彷彿とさせた。



「……寂しかったね」


しんしんと降り注ぐ雪は頭の上を濡らして。


ああ、やっぱりこいつには敵わないなと。



しずかに目を閉じた。