「幸せは定型じゃないんです!それを教えてくれたのは、私を救ってくれたのは……他でもない、あなたなのに……」


叩かれた胸はさきほどよりも力なく、もたれかかるように顔をうずめるその姿をただ見下ろすことしかできない。



「なんで、そんなあなたが。誰よりも優しい花平くんが、自分の幸せを捨てて生きなきゃいけないんですか……そんなのおかしいでしょ」


「……茅森」



「自己犠牲はもう充分。自分の心と身体を大切にしてよ。お願いだから、もうひとりで苦しまないで。……花平くんの本当の気持ちを教えて」



……俺は、こいつの笑った顔が好きだった。

ふわふわと屈託のない笑顔は見ていて飽きなかった。


料理をしている後ろ姿をじっと見つめていれば、ゆるりと振り返ってすこし驚いたあとふっと笑う。


今日はお茶漬けなんですけど怒らないでくださいね、と。

怒らないと答えたら、知ってますよ、とまた笑う。


そんな姿をもっと見ていたかった。近くで、ずっと。